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私が目を覚ますと、妙な屋敷にいた。私の目の前に一人の女がいて、その女はどうにも物語を語っているようだった。
屋敷の外を見ると、まさに照らしようもないほどの暗闇であった。
「……こうして、魔神は願いを叶えたのです」
ぼんやりとした頭で彼女の方を向くと、ぼやけていた視界がゆっくりと合い、どのような者なのかはっきりとこの目にうつった。
ぱっちりとした藍玉のように輝く瞳と、金砂のような柔らかそうな絹の髪、そして人形と見紛うほどの目鼻立ちに大理石のような肌……いや、大理石のようなのではない。女は腰から下ほどが大理石で出来ていた。足やスカートまで作り込まれた美しい像であった。
「……王、今夜の語りはここまででございます」
女の楽器のようだった語りが終わったらしく、こちらを不安げに見つめてきた。藍色の光を見ると、女が生きているのは奇跡のようであった。なにせどこから見ても人ではなく、人形のようなのである。
「ならん。夜はまだ明けていない。語りを続けろ」
その楽曲のような語りをもっと聞きたくて、夜が開けないことを祈った。先ほどまで相手いなかった屋敷の窓はいつの間にか開いており、真夏のような蒸した、爽快感のない風がぬるりと女との間をすり抜けた。
再び彼女は語りを始めた。語りの話はよくわからなかったが、何処かで聞いた気のする話であった。
「そして、七つの海へとくりだしたのです」
なんの話だったか、全く思い出せなかったが彼女が全く動けなくても生きている理由がわかった。
見た目もさることながら、極上の声で摩訶不思議な物語を語るさまは殺そうとも、ましてや彼女を手放そうとはとても思えないほどのものであった。
ゆったりとした声で彼女の美声が耳をうつ。彼女が身振り手振りで語るたびに肘までの衣服がまるで羽根のように舞うのだが、下半身のスカートやレースが揺れ動かないことが彼女の下半身か偽物ではなく作り物であることをあらわしていた。
その語りを聞いているうちにだんだんと意識が朦朧としてきた。ゆっくりと瞼が落ちていき、彼女の姿が消える。
どうにも、夜が開けたようである。
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