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ふと目が覚めた。窓の外はすっかりと夜の戸張が落ちており、月すら見えない闇夜となっていた。
あれから何度か彼女の語りを聞いた。どうにも物語は彼女がつくったものらしく、何処かで聞いた気がするのは気のせいだったようである。
何夜目か数えるのを忘れたが……。また彼女の語りが始まった。こちらを慈しむように見る藍色と、薄絹のように舞う金の髪が夢物語のようで、不思議な感覚があった。
桜色の唇から紡がれる物語は、なんだか幼いころを思い出させるものであり、私の心の闇を取り払った。彼女が手を動かすごとに腰周りのレースが揺れ、その白く光沢のある布が僅かな灯りのランプに照らされきらめいた。
「また、王子は姫を望みました」
私は語りを聞きながら彼女に見とれており、彼女の身体が、ふわり、ふわりと左右に揺れるたびに頭を動かした。
大理石のような彼女の肌がおかれたランプの僅かな光りで白く写し出され、まるで夢を見ているかのようだった。
先日まで私に怯えていた彼女の姿はもう無く、その語る姿は優しさすらあった。竪琴のような彼女の声には柔らかさがあり、愛……と言うほどのものではないが、私に対する慣れのようなものを感じた。
「して、姫はどうなったのだ」
「急かさずとも語りますとも。王子に助けられた姫は……」
物語は即興なのかわからないが、話に取り込まれるような面白さがあり、まるで実際に見ているかのような臨場感があった。
彼女の無機質にも感じられる声がゆったりとした一定の調子で屋敷の中に響き、私の心を揺らした。
感心のあまり、ほうと一つ息を吐くとランプの火が揺らめき、彼女の影が踊るように揺れた。
「王よ、今宵の語りは満足いただけたでしょうか?」
「ああ、どのようにしてそんな物語を語っているのだ?」
何度も彼女から物語を聞いているうちに疑問に思ったことを口に出すと、なんと言うことはないと言うように彼女はコロコロと笑った。鈴の音のような涼やかの笑いであった。笑う彼女を見ると、不思議なほどに心が安らいだ。
「簡単なことでございますよ。物語とは運命が決まっているものでございます。わたくしはそれを線にそうように語っているだけでございます」
なるほど。通りで迷いなく語るわけである。彼女は語りをする上で一度もつまることも、迷うこともなかった。
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