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いや、それこそが始まりだったと。
決まって深夜。岡田さんは、言いようのない気配に目をさまし階段を降りてゆく。
すると、引き戸の向こうに、あのぼんやりとした影がいるのだ。
「・・・・・・」
無言のまま、ふらつくように。
「最初は一週間に一度程度。ええ、何度も初日のように外に飛び出しましたよ。二度目からは錯覚とは、とても思えませんでしたし。けれど結果は同じ。何もいない。その時点では、ですが」
岡田さんは無意識にだろう。右手の人差し指を口元にもっていって軽く噛んでいた。
「そのうち頻度が・・・。三日に一度になって、もう毎日のようにね。まいりましたよ。
それに、数が増えるんだ。最初、ぼんやりとした影は一つきりだった。
それが、二つになって、もっと増えて・・・もっともっと」
人差し指が何度も噛まれる。次第に強く。
岡田さんは悩んだ。当然だ。
自分が見ているのは現実だ。何かが深夜に自宅の玄関先まで入り込んでくる。
けれど、その何かとは何なのか。
正体は分からない。姿もはっきりとは確認できない。おそらく捕まえることもできないのではないか。
つまり。それが何であれ人間などではありえない?
「そうとしか思えない。理由も何も判然としないけれど、自分の家に幽霊・・・ですか。常識が通用しない何かが夜毎やってくる?
そんなこと誰に相談したらいいのか。警察? 相手にしてくれないでしょうね。お医者をすすめられるのがオチで。
ならお祓いでも? サイトにはそのテの専門家を自称する連中がうんざりするほどいるようだけれど、どれが信用できるのか。
ほんとうに、まいってしまって・・・くそっ」
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