この家には盛り塩が欠かせない…

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 懊悩する岡田さんの脳裏に、ぼんやり浮かんできたことがあった。  つまりーー両親がその死の直前まで欠かさなかった例の盛り塩である。  何か月も玄関先の盛り塩は中断したままだ。  一度としてその行為の理由を話さなかった両親。けれど、それをやめてはならないと語っていた両親。 (ひょっとすると。あの盛り塩は、こいつと関係がある? まさか)  そんな思いをよそに決定的な夜がやってきたのだ。  自宅で独り、夜を過すおそろしさから逃避するかのように。憔悴しつつ、日々遅くまで会社勤めを怠らなかった岡田さんだった。  もっとも仕事ではミスを連発し、上司からはかえって休暇をすすめられる始末。  その夜も疲れきって、ベッドに倒れこんでいた彼の耳に。これまでとは全く異なる『音』が飛び込んできた。  バン (なんだ?)  バン! バン!  バン!! バン!! バン!! バン!!  階下から異様な音は響いてくる。  岡田さんは血走った目で飛び起き、転げるようにして階段を飛び降りた。  そうして、そこで見た光景は。 「けくっ」  岡田さんの喉から絞殺されるような音が発せられる。    引き戸が10㎝ほど開いている。そして、その隙間から何本もの手がーー外から突き入れられていた。 それらが、てんでばらばらに玄関の壁や床や天井を叩いているのだ!!  性別や年齢は分からないがーー隙間の上から下まで。5本? いやもっとたくさんの腕が。  ありえない。 どんな姿勢をとれば、こんな真似ができるものか。  いや、それよりもだ。薄暗い照明の下、青黒く見えるそれらの腕はーー全てマトモではなかった。  指先が、欠落しているもの。  全ての指が潰れたようになっているもの。  いや、そもそも手首まで『もげて』しまっているものすらある。  暗いのに岡田さんには、それらが細部まで見てとれるのだ。  頭のなかにネジがあるとしたら。それが、どうかなるような光景であった。
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