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5  一見すると美男美女でしかない奏と瑠璃のことは校内で有名になっていたし、奏のファンの女の子達もおおむね納得していたけれど。 「恋人なんて作らないでください……」  女の子は俯いて、涙を拭いながら震える声で言った。その友人が肩に手を置いて慰めているのか言い聞かせているのか声を掛けている。  胸を貫いた言葉の余韻を感じながら、奏は真剣なまなざしを目の前で泣く女の子に向けた。  ――謝るべきなのだろうか。毎回、正解が見つからない。告白された時も、何を言えば上辺だけではない胸の内を表せるのか分からない。 「ごめんなさい。この子、本当に奏くんのファンで……」  と泣いている女の子の友人が口を開いた。 「いや……」と少し微笑みと共に応えて、また表情を引き締めた。「ありがとう。きみの、気持ちは嬉しいよ。きみ達と同じように、とはいかないかも知れないけれど、私も想いを向けていけたらと思うよ」  俯いて顔を見れない女の子に「ごめんね」と奏は囁くように言った。きっと、女の子は顔を見られたくないのだろうと思う。  友人に支えられるように背を押されて女の子は立ち去った。掛けた言葉は慰めにもならなかったかも知れないけれど本心を伝えたつもりだった。奏は深く、息を吐いた。胸を貫いた言葉を体に馴染ませるように。 「奏くん」  掛けられた声に奏は振り返った。中庭の端の方だったとはいえ、誰が通ってもおかしくない場所に居たのだから瑠璃が現れても不思議ではなかった。 「ごめん……。何か、動けなくて。聞いちゃった。ごめんね」 「構いませんよ」  奏はむしろ肩の力を抜けた気持ちになって答えた。瑠璃が奏の傍に来て顔を見上げる。 「……僕も経験ある」 「え?」 「知らない男から、幼馴染のあいつと付き合ってるのかって詰め寄られた事、ある」  突然の暴露に驚いて奏は咄嗟に声が出なかった。 「――大丈夫?」  合わせた瞳が優しく揺れている。瑠璃はやっと労わる言葉を発した。その声音はとても心地良く、奏の心に響いた。 「はい」 「よかった」と瑠璃が笑う。自分は情けない顔をしている、と奏は思っていたけれど、瑠璃から見れば切なくも美しい表情に見えた。  たった一言、ありきたりな言葉なのに上辺だけではないと感じる――勝手だな。あの子も、自分も。 「瑠璃さん」 「なに?」  呼べば当然のように返事をくれる。小首を傾げる様は可愛いのに、今は少し、格好良いとも思う。 「格好悪いところ見せて、すみません」 「奏くんはいつでも格好良いよ」 「ありがとうございます」  奏は心から言って微笑んだ。例え返ってくる想いがなくてもこの気持ちは変わらずに心に残り続けるだろうと思えた。
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