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「眉を寄せられてますね。人間はお嫌いですか?」
私自身が人間なのに、人間が嫌いとは本当に何なんだろう?お面を被って妖気を纏うことに躊躇もしないくらいに。
「俺も昔から人間は嫌いでした」
なんとなく、自分が人間だと言い出せなくなってしまった。
「………」
私は、昔から少し変わった子どもで、周りに馴染めなかったから、だから。
斜に構えるようになった。
執着なんて捨ててしまえ。何も期待するな。自分に言い聞かせていた言葉は、優しいものではなかった。
いつの間にか、人間が嫌いになっていたんだ。こうやって、妖に身をやつして、実感した。
どんな形でも良い。人間を好きになることが出来たら、変われるかもしれない。
「とりあえず、仕事は明後日からです。明日は身辺整理をすると聞いております。とりあえず部屋を覗いて見たらどうでしょうか?」
「そうします。明日は早めに用を終わらせます」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。お身体に障ります」
この病弱設定いつまでやれば良いのだろ。
屋敷の外は相変わらず暗い。イチジクさんと別れた後、庭を散策していたところ、手元にあった携帯電話を覗くと、なんと時刻は午前八時。既にこんなに時間が経っていた。
どうやらこのお屋敷、昼間とか夜中とか区別がないらしく、ずっと暗闇のままらしい。夜目が聞かないのなら、カンテラを持ち歩いた方が良いとイチジクさんにアドバイスをもらった。このお屋敷の日本庭園には水の妖の好む小さな川が無数に流れているらしく、そこかしこに小川という名のトラップが仕掛けられていた。
『ある使用人は足を滑らせて服を濡らし、洗濯物も全てやり直しになりましたから、明かりは必須ですよ。俺なんかは狐火でなんとかしてますが、鬼の方はどうされているのですか?』
ちょっと何て答えて良いのか分からなかったので曖昧に濁して置いた。
「ん?」
この橋、京都にあるいわくつきの橋と似ているなあ。小川にかかった小さな橋から流れていく水面をしゃがんで見つめていると、ふと誰かの声がした。
そっと耳を澄ますと微かに声が聞こえる。
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