1章 遭遇

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「イチジク。好きな女に話しかけることは出来たのか?お前、数ヶ月前から何も進展してないじゃないか」 「何故、天月様が俺の恋愛事情にお詳しいのですか?俺は何も言ってないですよ」 なんという男子トーク。 聞いたらマズイというか、気まずいというか。そろそろとその場を後ずさろうとしたところで、天月様の楽しそうな声音。 「お前は機嫌が良いと狐火の調子が良くなる。話しかけることが出来たらご機嫌どころでは、ないだろう?というよりもだな。お前人間嫌いなのに、何があったんだ?色恋沙汰なんか興味なさそうにしていただろう?僕はそれが気になって仕方ない」 「ただの一目惚れです」 「おお!話を聞かせろ」 「そんなことより、執務室へどうぞ。俺のことは良いから仕事をしてください!」 照れ隠しの声は、初めて見る年相応(?)の青年らしさで、少しだけ羨ましくなった。 彼氏が居た癖に、私は本当に人を好きになったことがないのだ。 誰かを好きになるってどういうことなんだろう。一目惚れって、どういう原理なのだろう。 分からない。彼が羨ましいと切に思った。 「今日こそは話しかけます」 「結果は聞かせろよ?」 男の人の恋愛観ってどんな感じなんだろう?それを理解していれば私も浮気されずに済んだのかな? 今さら考えても無意味だって百も承知だ。それでもそう思わずにはいられない。 だけど、しばらくは恋愛なんてしたくない。壊れてしまえば、もう元には戻れないのだから。 彼らの話を聞くまいと耳を塞ぎながら、きぃっと錆びた音を出した門を開いて、そっと目を閉じた。 ふわりと髪が舞う感覚と共に気が付けば、御神木の前に立っていた。普通の人には見えないらしいけど、御神木に人が一人入れるくらいのドアが取り付けてあって、こことお屋敷は道が繋がっているのだ。 人には見られない。妖は普通の人には見えないから。妖もどきの私はどうなのかと周りを見渡して、ふと気付く。 誰も私と目が合わない……? この面、どうやら体質ですら妖に近付けてしまうものなのかもしれない。それか本当に見えないというよりも、気配が限りなく零に近くなるか。 どちらにしろ、厄介なことにはなりそうもなくて安心する。 だって和風メイドが生成りの面を付けて歩いてたらコスプレ感満載だもの。
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