1章 遭遇

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持ってきた服を公園のトイレで着替えた後、鞄の中に面と着物をしまい込んで、大学の最寄りまで行けば、見慣れた風景にやっと現実に帰ってきた気がする。 今日は大学を休学する手続きをしに来たのだ。 せめて天月様の命が狙われなくなるまでは、協力したい。キッカケは元彼と別れたことだったけれど、少しずつ淀みは私の中に溜まっていた。 自分が何をどうするつもりのか分からないからこそ、家族から逃げてみることにした。自分が情けない選択をしているのは分かっていたけど、そうせずにはいられなかった。 これは一種の自己防衛かもしれないけれど、それでも自分の意思を蔑ろにしたくはない。 そんな時、答えのない問に頭を悩ます私の思案を破ったのは、聞き覚えのある声だ。 人の少ない時間帯のカフェテリアでぼーっと佇んでいた私に声をかけてくる知り合い。 「お前、この数日間、音信不通だったけどどうしたの?」 しれっと声をかけるとは。この男。 私の元彼が目の前に立っていた。 思わず睨みつけそうになるのを堪えながら、私は完璧に作られた笑みを浮かべる。 「丁度良かった。話があったの」 人気のない場所だ。別れ話をするのにも丁度良い。穏便に済ませて何もかも忘れてやる。 「話?」 「私、大学を休学することにしたの。これを機に私たちも別れない?」 さらっと何でもないように言ってやった。なんだろう。胸の内がすうっとする。 「は?何それ」 「別れよう?」 「突然すぎるだろ!何?俺、悪いことした?」 胸の内に手を当てて考えてみろ。是非とも。 「貴方にはもっと素敵な人がいると思うの」 友香とかね。 「何でだよ。そんなの納得いかない」 「別に貴方のことを嫌いになった訳ではないから」 嘘だよ。大っ嫌いだ。今は穏便に別れることが出来ればそれで良かった。 もともと、未練なんかなかった。この人と付き合ってみたら何か変わると思ったけれど、そんなことなかった。 「そんなの許さないから」 「いっ……」 唐突に掴まれた手が痛い。振り解くことも出来ずにギリギリと締め付けられていく。 「いや、祐也。落ち着こうか。とりあえず」 「俺はお前のことが好きなのに」 じゃあ、何故?何故、友香を抱いたの?
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