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ふと、手に何かが触れているのに気がついて、私は目を開けた。
「ここは……」
私の部屋?それも、天月様の屋敷だ。
横たわっていた私は、慌てて飛び起きた。
そもそもあれからどうなったの?あいつは。あいつは、どうなったのだ?
私は何で寝てるの!?
手に柔らかな何かが触れている。
「え?」
黒い塊。それも子犬ほどのサイズのもふもふした動物がくるんっとベッドの上で丸くなっている。
「え、この黒い子は……」
黒い狐。子犬サイズの狐。その黒を目にして、ふと妖に噛み付かれたことを思い出した。
あの時は驚かせてしまった妖が今、私の傍に居るなんて不思議な巡り合わせ。
柔らかな毛並みを撫でながら感慨深くなった?
「イチジクさん」
何の確信もなかったけれど、私はその小さな獣をそう呼んだ。
耳がピクリと反応したかと思えば、小さな黒い獣はそっと身体を起こした。
「バレちゃいましたか」
表情は分かりにくい。獣の姿だと特に。
「ずっと傍に居てくれたんですか?」
「……ええ、まあ」
罪悪感を覚えているのか、彼の反応は控えめで。
そっと彼の身体を抱き抱えると、抵抗はせずに素直に腕の中に収まった。
「どうしてこの姿なんですか?」
「俺の姿なんて、もう見たくないかと思いまして」
「どうして?」
「どうして……って」
戸惑っているイチジクさんは、気まずそうに身動ぎしている。表情が分からないなんて言ったけれど、こうして戸惑っているのは分かる。
「イチジクさん、私たち前にも会っていたんですね。この姿を見て気が付きました。黒い獣というのは同じだったのに、私ったら気付きませんでした」
「……そうです。貴女のこの傷を付けたのは俺です」
私の腕にある傷に服の上から、小さな狐の手が触れる。
「責任なんて感じないでください。あれからずっと私を守ってくれていたんですね」
「責任、なんて。そんな……俺はただ、貴女を」
「うん。分かってます。純粋に心配してくださっていたんですよね」
それが嬉しい。それで良い。だから、責任を感じてずっと傍に居て欲しいなんて考えてはいけない。
どうして、こんなにも心を許してしまったのだろう。心の奥底に触れて欲しいって思うんだろう。
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