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「少し聞こえてしまったんだけど、あのエロ狐にありがとうって伝えに行くの?」
「エロ狐って」
不本意です、と真顔なイチジクさんが目に浮かぶ。
「こるりが目覚める前までベッドの上でゴロゴロしていたんだからエロ狐で良いわよ。おまけに貴女にあいつの臭いがぷんぷんするのが気に食わないわね」
「あはは、大したことはなかったのですが」
完全に嘘である。やましいことしかしてない気がする。
「言いたいことがあるんでしょ?頑張ってきたら?」
「はい!」
イチジクさんに何を伝えよう。結婚のことはともかくとして。
「あっ」
居た。
彼の方はといえば、私の声に敏感に反応し、すぐにくるりと振り向くと、いつものように笑う。
「瑠璃さん、決めました」
「は、はい?」
何やら爽やかな笑みを浮かべていて、戸惑う。先程は茫然自失としていたから余計に。
「貴女に求婚を認めてもらうために、新しい必殺技を考えることにしました」
至って真面目に告げられる。イチジクさんもそうだけど、妖の価値観としては新しい技を考えることは自己改革なのかもしれない。
「あ、さっき断ってしまったのは驚いただけで!あの、そういうことはすぐに決めることではないので、これからも時間もありますし、ゆっくり決めませんか?」
「成程。夫婦になる前に恋人期間を設けようということですね」
「まあ、そんな感じです」
イチジクさんは私たちの関係に何か形が欲しかったのかもしれない。
頬に手を伸ばされ触れそうになったところで、甘い予感にどきどきした。
「あの、イチジクさん?私、他にも伝えたいことがあって……あの…」
ありがとうございます。そう伝えようとした私の唇は彼のそれで塞がれてしまった。
まだ言いたいことがあったのに。
いや、焦る必要はない。私は彼と同じ時間を共有することが出来るのだから。
END
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