1章 遭遇

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彼の余裕のない姿を見るのは初めてだった。まるで私しか見えてないみたいな。 「祐也くん!」 甘ったるくて高い声が彼の名前を呼ぶ。 ああ。なんだ。一緒に居たんだ。私のことを好きと言った癖に、一緒に居たんだ。「あ、マズイ」とでも言いたげな苦虫を噛み潰したような祐也の表情に、私の顔も能面のようになった。 「あれ?お姉ちゃん?」 「友香、奇遇だね。祐也と一緒だったの?」 「お姉ちゃん……」 目を潤ませて甘えるように見上げる義妹は、小賢しいただの女にしか見えなかった。友香が私のことをどう思っているのか皆目見当もつかないけれど、私は彼女のことを好きではなかった。以前から。 「ごめんね……。いけないって分かってたんだけど、でも……こういうことだから……」 自らの腕を彼のそれに巻き付けて、少しも申し訳ないなんて思ってない造られた顔でこちらを見つめる彼女を見て頬を打ってやろうかという衝動に襲われる。 妹の方が若いもんね。祐也が考えていることも所詮そのくらいで、私にはバレないだろうと過信していたのだ。 友香の愚かさを知らないからだ。     
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