1章 遭遇

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もっと上手くやりたかったのだろう。絡みつく彼女の細い腕を振り解く素振りを見せながら相変わらず苦虫を噛み潰したような顔。 ちっ、と舌打ちが聞こえて、こいつを一番張り飛ばしてやりたいと思った。 私の噂に惑わされずに好きと言ってくれる人、もうきっと居ない。未練なんかないはずなのに、私が被害者のはずなのに、妹を虐める姉という構図が出来上がっているのが解せない。 女の涙は無敵だ。ずっと仏頂面の私とは正反対。男からしたらさぞかし庇護欲がかき立てられるのでしょうね。 「(みなみ)さんに睨まれてる女の子可哀想」 そりゃあ睨みもするでしょ。浮気の現場で修羅場なのだから。 上手く人と付き合えないせいで怖い人扱いされている。 「本当に悪いと思ってるの。お姉ちゃん。でも、好きになってしまったから……。祐也くんは、悪くないの。全部私が」 「瑠璃。断じて浮気じゃないから。遊んだりはしてたけど、俺たちには何にもないから……」 「え、でも祐也くん、私とこの間」 「友香ちゃん、ちょっと黙っててくれよ」 友香は恐ろしく空気が読めない。それはもう頭の中がゆるふわかと思うくらいに。 ああ。なんでこの二人の痴話喧嘩みたいなのに巻き込まれるのか。しかも、この男は明らかに嘘と分かる嘘を平然と宣うから、馬鹿にしてる。
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