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どうしよう。家に帰りたくなくなってきた。
課題が終わって、ようやっと一息入れられたと思ったらこの展開はないだろう。
頭の中が少しずつクリアになっていって、彼らに対して何の思い入れもなくなっていくのが分かる。
もう無理。
込み上げてくる生理的嫌悪感と共に、全てがどうでも良くなるような虚無感がどっと押し寄せて来て、私はその場にしゃがみ込んだ。
なんだか、あいつらに傷付いたところを見せたくない。
いちゃいちゃと絡み合う腕、それを横目に私は通り過ぎた。どうどうと通れば逆に気付かれないのか、それとも彼らには周りが見えていないのか。
とりあえず、虚しくなりながら、溜息を零した。私の妹は私のものを何でも欲しがっては手に入れればすぐに飽きるという厄介な性質を持っていた。
もう、なんかの珍獣か何かとして扱ってやろうか。
最寄り駅から大学へ赴いた私は、ピークの時間を過ぎたカフェテリアでぼんやりと席についていた。
いつからこんなことになったのだろうと考えても仕方ないことを考えている。こんなの無意味なのに。
ガタン、と椅子が引かれる音と共に、目の前に誰かが座る気配がした。
あ。この人。話したことはないけれど学年が同じの青年。よく見かけるのに私は彼の声を実は聞いたことがない。その大人びた風貌は年上のようにも見える。
濡れ羽色のサラサラとした清潔そうな前髪。ほんの少し長めの前髪がその凛とした綺麗な顔を隠している。僅かに色素の薄い瞳を縁取るのは長い睫毛が影を落としていて女の私から見ても美人な青年だと思った。
そりゃあ、女子は騒ぐよね。うちの大学でも目立っている人で、よく女子がぽーっと見つめているのだが、本人は周りの女子など歯牙にもかけないことで有名だった。
でも、この人よく見かける気がするのは気のせいか。
首を傾げつつ、私は足を組み直して、携帯電話に視線を落とした。
二股されていたと気が付くと何気ないメールですら腹が立ってくる。
縁切りたい。うん。切ろう。
ふと顔を上げた私は硬直した。こちらを見つめているものと目が合ったから。それはバチリと合ってしまって逸らすのも躊躇われるくらい。
噂のモテ青年ではない。正確に言うと、青年の後ろからこちらを見つめている黒い影。
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