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長い睫毛が伏せられ、その形の良い目蓋を縁どっていて、色素の薄い瞳は隠されて。
「んっ…」
完全に息が止まった。
暖かくて柔らかい弾力を持った何かが唇を掠めたと思ったら、熱い吐息が直接触れ合った。
なにこれ。なにこれ?唇に当たってるこれは、もしかして。
顎をぐいっと掴まれて、やっと状況を理解した。
なんで、私イチジクさんとキスしてるの?!
柔らかく食まれる唇と、「ん…っ、」と艶めかしく漏らされるイチジクさんの呼吸が非現実のようだった。振り払えるくらいの拘束なのに、優しく愛撫するような口付けに抗えない。
混乱と驚愕の境地でてんやわんやする私はもはや身動き出来なくて。
ふにっとした感触が生々しくて、その肌の温度も生々しくて、びくりと震える。それでも慰めるようなキスは終わらない。
「ん、んんっ……」
「っ……、じっとして……」
あ、敬語が外れた。
熱い。柔らかくて変な感触。キスってこんな感じだったの?少し濡れてて、恥ずかしくて。息が、くすぐったい。髪の毛もくすぐったい。
僅かに唇を吸われて、ちゅっ……と微かな音を立てて唇が離された時、ようやく彼と間近で目を合わせた。
「な、なんで……」
なんで、キスしたの?
「あ、涙が……」
私、自分が泣いてることにも気付いてない。言われて気付いた。何が起こったか分からないまま、涙に濡れた頬にイチジクさんはそっと唇を寄せて拭う。
「どうか、泣かないでください」
「どうして、どうしてこんなことを……」
「貴女の唇が傷付くよりは良いですから。それに泣きそうだったので」
何それ。
急激に頭の中が冷えていった。
「……私、帰ります」
男の人が分からない。なんなの?男っていうのは好きな人とじゃなくてもキスしたり、それ以上のことが出来るの?
イチジクさんもキスくらいって思ってる人種なの?いや、狐だった。
「え、あっ……。お待ちください!」
「付いてこないでください!いきなり女の子にこんなことするなんて、最低です!初めてだったのに!」
私は祐也に唇さえ許したことがなかった。今、思えばそういうところだったのかもしれない。
いわゆる、飽きられる理由。
「待って!」
案の定追って来た。
「やっ……!離して!」
「逃げないでください!」
「知り合ったばかりの人に突然キスされたら誰だって逃げるでしょうよ!」
ふと、拘束が緩んだ。
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