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「お詫びにケーキをご馳走します!一番高いものを頼んで良いですから!」
ふと、私は抵抗を辞めた。
「ほんとですか?」
ちょろいとか言わないで欲しい。自分でも分かってる。何より、これから仕事で一緒のイチジクさんを振り切ったところでまた会うのは確実だから、それなら奢られた方が良いに決まってる。
信用出来そうだと思ったけど、やっぱり男は男だ。
私は、もう一生結婚しなくて良い。
「おかしいな……。天月様によると、これは求愛行動の一種だと聞いたのに……。俺がして落ちない者などいないと仰ったのは何だったのか……」
私はこの時、彼が何を呟いていたのか、耳には入っていなかった。急展開に目が回りそうだったからだ。
「とりあえず。あの場所から連れ出してくださったことには、感謝です」
「近くに居たのですが、話を聞く限りとても理不尽だと思いましたので、口を挟ませて頂きました。お節介でしたら申し訳ございせん。」
「それは助かったのですけど、あんなことするのはちょっと」
「す、すみません、つい……」
なんかこの人キャラ違くないか?顔も心なしか真っ赤になってるし。素は純情だった?
でもね、つい……なんて一言で許されることじゃない。
「何があったのか聞かせていただいても?」
もう、こうなったら愚痴ってやろうじゃないか。
イチジクさんの言うケーキ屋へ向かう最中、ポツポツと話した。妹に裏切られたこと、元彼に裏切られたこと。妹とは血が繋がっていない姉妹ということ。私の父と再婚した女性の連れ子が妹だ。妹が出来たのは私が十歳の時で、当時から妹がそれほど好きではなかった。
「私は妹のこと、昔からそれほど好きではありませんでしたけど、それを表に出したことは一度もありません」
「まあ、分かります。問題を起こさずに穏便に済ませたいですよね」
うんうんと頷くイチジクさん。
「彼女は昔から強かでしたので、庇護欲が湧くこともなく……。私が薄情なのかと悩んだりもしたのですが、あ、でも!最近会った子に対しては守りたいって思うくらいですし……」
「最近、新しく誰かと出会ったのですか?」
ん?
「えーっと……?」
天月様のことなんだけど。
首を傾げるイチジクさんに違和感を覚えた。
「出会いとは一つの縁ですからね。こうして俺と貴女が今日初めて話すことが出来たのも何かの縁ですし」
はい?
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