1章 遭遇

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* 「こるり。調子はどうだ?」 窓拭きをしている折、声をかけられた。 「あっ、天月様」 「畏まらなくて良いぞ。僕と初めて会った時は、もっと親しげだっただろう?」 「それもそうなんですが、雇い主ですし」 ふーん、そんなものか……と首を傾げながら、やがて天月様は大きく伸びをした。 「今は何をやっているんだ?」 「今は、この屋敷の色々なものの配置を覚えているところです。厨房の方々にも挨拶出来ましたし、後は今出払っている方々に挨拶出来たらと」 「まあ。そんなに畏まるな。時々僕も調子を見に来るから、何か分からないことがあったら聞いてくれ」 見た目は十歳くらいの少年なのに、佇まいが屋敷の主人然としている。この子、本当はいくつなのだろう? 「そうだ。此度の悪巧みだが」 ん?年相応の少年のようなまさに悪巧みをした顔。頬がゆるゆるだ。 「南瑠璃とこの僕とで悪巧みをしようじゃないか」 「え?こるりではなくて?」 つまり人間の姿の私と天月様とで何かをするということなのか。 「今まで協力者に人間はいなかったからな。こういう方法は取ることが出来なかった。だけど、お前が来てくれたおかげで選択肢が増えたんだ」 「私が何かの役に立っているなら純粋に嬉しいです」 それはもう、かつてない程。誰かに必要とされることがこんなにも自分を確立させることが出来るなんて。 そこまで私は嬉しそうにしてたのだろうか。 「僕はお前を依存させるつもりはないんだ。お前が役に立たなくてもそうでなくても、友人であることは変わりないと、それだけは分かって欲しい」 私を案じる天月様は、少し悲しそうにこちらを見つめていた。 「友人?」 「ああ。僕の友だちだ。……よし、決行する時は声をかけるからな。僕は管狐にでも身をやつすか……。ああ、楽しみだ。一度見てみたかったんだ」 「……?何か分からないけど、楽しみにしてますね!?」 楽しそうな天月様が去っていくのを見届け、ふと背後に気配を感じた。 「こるりさん、窓拭きはどこまで終わりましたか?」 「はい、あと、こことそっちで終わります」 「反対側を手伝いますね」
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