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白いワンピースを着た髪の長い女性は顔色悪く、土気色をして硝子のように虚ろな目でこちらを見つめているのだ。
私はまた溜息をついた。幸せが逃げるとか言っている場合ではない。
人ならざる者と目が合ってしまうなんて今日は踏んだり蹴ったりだ。
こうした浮遊霊や地縛霊などの、何かしらの未練を残した、既にこの世の存在ではない者を相手にする際、視線を合わせてしまうのはタブーだ。
こちらが見えていることに気付いてしまえば、彼らは救われようと必死になり、何かしら干渉を始めるのだ。
最悪、こちらが憑り付かれてしまうこともあるのだ。憑り付かれれば何かしら厄介なことが起こるのは必須。
面倒だな、と思った瞬間だった。
「気配が五月蠅いな」
ぼそりと囁く声は目の前から聞こえてくる。
嘘。もしかしてこの人、見えてる?
目の前の青年は、後ろに佇む、女性の幽霊を鋭い視線で一瞥すると小さく舌打ちをした。
すうっと消えていく人ならざる者。
え?こんなに簡単に去っていくものなの?私は神社に行ったりとか、寺まで逃げたりとかしてたんだけど。
こちらに視線が向けられる前に私は顔を伏せる。
「これだから人間は面倒なんだ」
この人、確か人嫌いで有名だったような気がする。なんて名前だったか忘れてしまったけど。
ええっと、この人何て名前だっただろう。
「狐村くんやっぱりカッコいい~」
あ、確か、狐村壱。
周りの女性の声でやっと思い出した。
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