1章 遭遇

30/41
前へ
/179ページ
次へ
教育係は変わらずイチジクさんで、彼との仲は相変わらずだった。女性と見たら口説く人だと思っていたけれど、仕事の最中は弁えるのか、言動におかしな所は一切ない。 人間に対してだけ?いや、彼は人間が嫌いだと言っていた。脚立に足をかけて、高いところも丹念に拭き清めながら、その齟齬が気になって仕方ない。 「あとは三階ですか?」 「あ、三階は確か雪洞(ぼんぼり)さんが担当してくれています。先程、帰って来て早速、仕事に入ってくれています」 「え?!ご挨拶を!」 「ひと段落したら顔を見せるよう言付けておりますので、時期に来るでしょう」 ぼんぼり、さん。可愛らしい名前とその響きは女の子かな? 「雪洞さんは、その……あまり女性との付き合い方が分からないみたいで、どうか許してあげてください」 女性の付き合い方が分からない? 「男性の、方ですか」 お屋敷からあまり出ないならば、女性慣れしていないかもしれないよね。 「あ、いえ。女性なんですけど、まあ、御本人がとてもある種の典型的なお方というか、なんというか……」 「はい?」 とりあえず遠い目をしたイチジクさんは何かを回想しているのだろうか。 「彼女に密偵は無理です」 本当に何があった。 「イチジクさんお久しぶりですっ!」 顔を見合わせている私たちの後ろから女の子の声が大音量で聞こえてきた。 わっ、可愛い。私の和服メイドと違って、典型的なメイドのイメージであるフリフリのスカートとエプロン、それはいわゆる黒と白のゴシックなミニドレスで……。 これ、ゴスロリ?ヘッドドレスは私も付けているけれど、彼女のヘッドドレスはとても可愛らしいフリフリと共に大きな黒のリボンが縫い付けられていたりする。 髪の毛はふんわりとしたウェーブを背中まで流していた。ミニスカートから覗く太股はガーターベルトで絶対領域を演出していた。 「この方が新しく入って来た、こるりさんです。お手柔らかにしてくださいね?」 「ふふ、イチジクさんったら酷いですわ。そんなにこき使ったりしませんわ?」 と言っている割にこちらを見る目が鋭い。上から下まで眺めて検分されているようにしか思えない。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加