1章 遭遇

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「初めまして。こるりと申します」 とりあえず挨拶をするけれど、視線が痛い。何を考えているか分からないから余計に。 「雪洞さん、三階の部屋はどこまで終わりました?」 「えーっと、確か窓は終わりましたわ。部屋は全く終わってないです」 人差し指を口元に当てて考え込む仕草はあざとい。女性から見たらあざといけれど、男性から見たらたまらないんだろうなあ。一つ一つの仕草が可愛らしく洗練されてる。 私はこの状況から離脱することにした。 「では、私は水を変えてきますね。あと箒ももう一本」 「ありがとうございます。では。先に行ってます」 戦線離脱。こちらを舐めるように眺められているのが気まずい。 「私もご一緒しますわ」 え。付いてくるの。 「あちゃー」と額に手を当てているイチジクさんは、目で「頑張ってください」と言っているようで。 え?本当に何なの? それにしてもニコニコしていた彼女が、だんだん歩くごとに無言になっていって、しかも真顔になっていくのが怖い。 あからさまなタイプってこういうことかー。つまりは女性と仲良く出来ない女性。 「この忙しい時期に新人とか、貴女空気が読めないのね。イチジクさんが優しいからってその気にならないでよね」 早速高圧的な口調来ました。ご期待にお答えくださり、ありがとうございます。 「まあ、確かにイチジクさんは優しいですけど……」 私はあまりお近付きになりたくない。 「言っておくけど、あの方物腰は柔らかいけど、完全に脈なしよ。媚び売っても無駄なんだから」 「確かに、そんな気がしますが」 タラシ男は恋に本気にならないって王道だ。 「病弱だったからって、それを理由にイチジクさんに迷惑かけたら承知しないんだから」 「雪洞さんはイチジクさんのことが好きなんですか?」 「はあ?なんで私があんな狐野郎を好きにならなきゃいけないのよ?!」 んん?あれ?私に辛く当たる理由が思い当たらなくなったぞ?何故? 「てっきり、私の教育係になったことが気に食わないのかと……」 嫉妬の類か思っていた。 「この屋敷に私以外の女が居ることが気に食わないのよ。メイドが紅一点っていうのが美味しいのに!」 り、理不尽!! 「それを言うならサトリの……」 三つ眼さんとか、と言う前にぐっと接近された。
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