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「はあ?あの方は男とか女とか、そんな括りで分けられないから良いのよ。それにヒロインって柄じゃないし」
三つ眼さん、性別を超越しておられた。
スタスタと私を追い越すと、くるりとこちらを振り向く。
「なんか訳ありでこっちに来たみたいだけど、ヒロインは私だから!誰がなんといってもね!」
「大丈夫ですよ。そもそも私この面を外すことないですし、ヒロインになることなさそうな気がします」
「病弱設定がヒロインっぽいじゃない!病弱とか言ってる癖にピンピンして働いてるじゃない」
「あー。私行くところないので、せめて置いてもらえると……」
何故、こんなにもヒロインに固執するんだろう。ちやほやされたいオタサーの姫とも似てるようなそうでないような。
行くところがない、と口にした瞬間、雪洞さんの顔に申し訳なさそうな表情が浮かんだ。この人、とても素直だ。
「そんなこと言って、イチジクさんに媚売るつもりでしょ!!私以外の女が甘やかされているのを見るとなんか癪で。あーあー。分かってるわよ。貴女も性格が悪いって言うんでしょ?!それをチクって満足かしら?!」
ある意味、嫌がらせされるよりも清々しい。
「それなら私の教育係、雪洞さんがするというのはどうでしょう?イチジクさんには話しかけにくいので雪洞さんに聞きに行きます」
「は!?」
ものすごく目を見開いてこちらを凝視されて、私は少しだけたじろいだ。そこまでおかしいことを言ったつもりはない。
「私、女子の先輩に憧れていたんですよね。雪洞さんがそうなってくれたら嬉しいなって」
陰湿な女子しか見たことなかったけれど、これ程に素直な人なら、きっと気が楽だ。性格は難ありかもしれないけれど、それはこっちもお互い様だし、少なくとも邪悪さはない。
悪人だとしても、真の悪にはなれなさそうだ。
彼女の仕事ぶりを見ていると、気質が伝わってくる。
「貴女、私に教えを受けるの?女子に好かれたことのない私に?」
「それ程はっきり仰られるといっそ清々しくて、逆に好感が持てますよ。雪洞さん」
こんなにあからさまな態度を取るのは何故なのだろう?少し分からないけれど。
驚いているのか口をパクパクと開閉させながら、絶句している。
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