1章 遭遇

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「トランプでもしませんか?」 一日の仕事が一通り終わった夜、カンテラを持ちながら屋敷の点検をしている最中のことだった。イチジクさんからの突然のお誘い。 「………」 私は面をしていてつくづく良かったと思う。口元は隠してないけれど、目元は隠せている。目は口程にものを言うから。 正直、ちょっと嫌だとも思った。仕事仲間としてならば問題ないけれど、個人的に付き合うならば、少し難ありのお方だと思っていたから。 「えっと、少しだけなら……」 「良かった」 本当に嬉しそうにするから、こちらが戸惑う。何故? 彼の半歩後ろを歩きつつ、カンテラが照らしていく廊下を眺めると、本当に雰囲気のある屋敷だと思う。 高級そうな壁紙と床敷は、薄明かりだからこそ儚げに照らされて、どこか異世界のような幻想的な雰囲気を醸し出していた。 綺麗だなあ。心なしか少し発光しているような、そうでないような? 「ほんの少しの光は狐火です。天月様は、持て余した力をその辺にポイってしますから」 仕方ないなあと言わんばかりの苦笑はどこか兄のような雰囲気を持っていて、今までのイチジクさんの表情の中で一番親しみが持てた。 こんな顔をするんだ。この人。って、人じゃないんだけど。 「この屋敷、今は人が出払ってますから、こうして見ると幻想的ですよね。普段から見慣れている俺でもそう思いますから、こるりさんもそう思うでしょう?」 「はい。思っていたよりも西洋的で、アンティークや西洋絵画なんかもあって、外国と映画の中にいるみたいです」 「まあ、よくあるゴシックホラーのような陰鬱さはないので、その辺りは期待しないでくださいね?」 ホラーか。今度、久しぶりにホラー映画でも借りて見てみようかな。仕事終わった後に使用人仲間で見るのもアリだよね。 「休憩室に確かカードが置いてあったような気がします」 コツンと音を立てて休憩室に足を踏み入れると、その真っ暗な空間もカンテラで照らされる。 「誰もいませんね」 思わず呟いてから、そういえばこの屋敷は人が少なかったと思い出す。 電気をパチリと付ければ、一瞬に明るくなり、イチジクさんはそのままカンテラを床へとそっと置いた。 「少々お待ちください。確かこの辺りに……」
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