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先程から彼はこれを聞きたかったのだ。トランプという遊戯はいわゆる口実。
「何も、なかったですよ?」
「本当に?貴女は平気そうにされておりますし、彼女の様子は満更でもなさそうに見えてはいたんですが、ここでやっていけそうですか?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
私の返答は模範的ないい子ちゃんの台詞だ。盛り上げるような会話が出来ないことが少し残念だった。
イチジクさんは女ったらしかもしれないけれど、彼は基本、善良なのだ。心から心配されるのは初めてかもしれない。
私は昔からどこか不自然に大人びていたらしいから。
「ですが、眠れていないのでは?」
「何故、それを」
「時折、眠そうにしているのを目にしたものですから」
そしてイチジクさんはよく人を見ている。私の些細な行動に胸を痛めてくれる優しい人だった。女たらしかもしれないけれど。
「来たばかりですからね。遠慮しないで何かあったら俺に言うんですよ」
優しげな声に心が揺れた。
手元のカードは既に少なくなっていた。カードを引いても捨てるカードしか出てこない。だってジョーカーは私が持っているのだから。
「貴女の事情は存じ上げませんが、もし俺が協力できることなら協力させて欲しいです。ここで働く仲間なのですし」
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