1章 遭遇

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モテる人のフルネームは何故か拡散しているものだ。私の妹も可愛らしくて愛想が良いから、高校では有名らしいけれど。 というか、裕也は未成年に手を出したのか。堪え性のない奴だ。うちの妹も節操がない。そういうことは一生のパートナーとすることだし、結婚してからだろう。この考え方が古風な考えであることは自覚している。 そんなんだから、取られちゃうんだよ~という友香の生意気な声が頭に聞こえてきて、思わず手に持っていた割り箸がミシリと音を立てた。 イライラとしていると理性がゆるゆるになると思う。普段では想像の付かないことをやらかすのも大抵、本能に身を任せている時や自棄になっている時だと思う。 夕方、夜の帳が下りる頃、日が沈み、昼と夜の境界線が曖昧になる時間帯を逢魔が時と言うが、私はその時間帯にまだ帰宅していなかった。 いわゆる見える私がこの時間帯にふらふらと出歩くのは無謀だった。まあ、神社に居れば良いよね、なんて軽く考えている私が居た。 ようするに家族と彼氏に裏切られた私は、思っていたよりも傷付いていたらしく、自棄になっていたのだ。 鳥居の前の長い階段を登り切り、鳥居前に腰を下ろして、珍しく呆けていたのだ。 ぼんやりとしている私の目を覚まさせたのは、異形の姿だ。 百鬼夜行。面妖な面を付けた人ならざる者が列を成している。神社の鳥居の階段を上ることはせず、神の道に足を踏み入れることなく、ただ、目の前を列が通り過ぎていく。 手に持つのは灯籠。二十メートル程離れているから、ぽつぽつとした明かりがぼんやりと暗闇に浮かび上がっていた。 いつの間にこんなに暗くなっていたのだろう。 チリン、チリチリ、と微かな鈴の音が鼓膜を揺らす。どこから聞こえてくる音なのかと耳を澄ませた私は、その音がだんだん大きくなっていくことに気付く。 それと同時にトテトテという小さな足音。 それは突然、私の前に姿を現したのだ。 「たすけろっ!」
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