21人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
鋭く響く子どもの声と共に、柔らかくもふもふとした小さなものが膝に飛びついて来た。暖かな温もりと切羽詰まったような雰囲気。
「はっ!人間!?」
「えっ?狐?しかも喋ってる」
この白い子狐は普通の動物ではなさそうだ。
お互いに硬直したのは仕方ないと思う。
私の膝に抱き付いた小さな獣は、そのくりっとした目に懇願の色が浮かぶ。
「もう、何でも良い!僕を助けろ」
助けを求めてる?
「あーっ、でも後ろからも…ちっ、厄介な」
恐ろしく口が悪い子狐を抱き上げて、ふと階段を見下ろすと、何か暗いもやもやとした霧のようなものがこちらにすぅっと近付いてくるところだった。黒いもやもやしたものは人形となり、その顔の部分にはすうっと狐の面が現れる。
あれって!?
目を見開いた。一度見たら忘れられないような怪物。おぞましい存在。
立ち上がった私は鳥居の中を潜り抜けて、境内へと飛び込むとお賽銭箱の影に隠れた。
あんな危なそうな奴らは神社には入らないと思う。経験からして。
ただ、鳥居の入り口でウロウロと漂っているように見える。
私は人外の煙らしきものを、睨みつける。
「うーん。ただの妖怪というよりは悪意の塊のような気も……」
「そうなのだ!僕を狙っている!今の僕は無力で、逃げるしかない……」
藁にもすがるというのか、身を寄せて来た子狐は正直可愛い。もふもふとした尻尾が指に当たって擽ったい。こそばゆい。
「とりあえずあの怪しいのが消えるまで、ここで待って置くのが良いんじゃない?朝になれば確実に帰れると思う」
単純に他に思いつかない。
「ああ……それしかない……」
尻尾が垂れ下がる。可愛い。
「私もここにいるし、頼りないかもしれないけど」
「人間、ここに居てくれるのか?」
ぽふっと可愛いお手々が腕に置かれた瞬間、庇護欲が湧いて来る。
理由は分からないけれど、この子を守らなければならないと思った。可愛いものは大好きだけれど、妖怪にこんなに可愛い子が居るなんて。
最初のコメントを投稿しよう!