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「うん。あの変なのが消えるまで私も出られないからね。一緒に居よう」
「す、すまない。この足だとすぐに追いつかれてしまうのだ。そのようなことはないだろうと思うが、奴らが万が一こちらに侵入してきたら頼むぞ」
「もしかしたら体力を消耗してる?」
ぐったりと耳を垂らした子狐は、私の言葉に身を擦り寄せた。
「狐としての妖力は強い方なのだが、僕は体力がない。まだまだ半人前だということだ」
ぶるりと身体を震わせる子狐は、強気な声音とは裏腹に怯えているように見えた。
「怖いの?」
「はっ、僕のような大妖の息子がこの程度で怖気付く訳がないだろう?体力さえ回復すればこのくらい……」
少年狐は自らに言い聞かせながら、頬を引き攣らせていた。身分ある妖?彼のような子どもは怖がることすら自由に出来ないのだろうか?
怖がることは別に情けなくないのに。普通の感情なのに。
「別に怖くはない!!」
「臆病であることが欠点とは限らないんじゃない?」
「え?」
きょとんとした子狐と目を合わせながら話しかける。
「恐怖っていうのは防犯本能なんだから」
「………」
鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情。狐に表情があるのは不思議だけれど。
「はっ……詭弁だな。そんなの体のいい理由に過ぎない。僕が怖がっていては配下の者が不安がるだけだ。まあ、でもそうだな。お前の言う通り、臆病を責める理由などはどこにもないな。確かに言われてみれば、本能なのだからな。下々の者の感情を無下にして良い訳がない」
上に立つ者の矜持やプライドもあるのかもしれなかった。僕は今まで他人に対して要求が多すぎただろうかとぶつぶつ呟いている。
「良い主なんだね。よく分からないけど、君の下に付く人は幸せだと思う」
「そうだろう、そうだろう!」
なんかこの子性格も可愛い。もふもふした姿で偉ぶってても可愛いだけである。
とりあえず境内の中で腰掛けられる石畳を探して座ると、小さな狐がちょこんと隣に座った。
人間みたいな座り方だなあ。
「それにしてもお前、妖が見えるのだな。人間にしては珍しい」
「昔からあまり良いことはなかったけど。君みたいに普通に話せる妖怪もいるとしてホッとした」
「無礼な。そこらの小物と一緒にされるとは心外な。自らの正体を隠せぬなど、お前が見た妖はよっぽど弱い奴だったのだな」
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