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子狐が高らかにそう言った途端、鳥居の向こうにいたもやもやとした異形がいっそう膨れ上がったような気がした。形も、しっかりと獣の姿っぽくなっている。
「!」
その姿を目にした私は瞠目する。
「な、何故か大きくなった気がするんだが」
「なんか狐みたいに見えなくもないけど、君の仲間なの?」
そんな訳はないとは思うけれど、念のため聞いてみる。
「僕はあそこまで醜悪ではないぞ」
黒々とした異形は確かに醜悪だ。私はあれ以上に醜悪な存在を見たことない。
あんな明らかに触ったらヤバそうなのが追いかけて来たら逃げるしかないと思う。普通は。
私は唇を噛み締める。この子を放置する訳にはいかない。
「狐くん、私はずっとここにいるから、君も置いていかないでね?」
「あ、ああ!そちらこそ、先に逃げるなよ!こういう時は助け合いだ」
三十分程、様子を窺っていた時だった。
「天月様。何をされているのですか」
凛とした女性の声が暗闇の中、響き渡った。気配が一切なかったことに恐怖を抱くのは当然なのに、その声音は私には安心できる響きとして聴こえ、恐怖は抱かなかった。
外見年齢で言えば、三十代くらいの落ち着いた女性。夜道に映える銀の長髪を靡かせながら、こちらに音もなく距離を縮めていた。
「なんだ、お前か」
「ああ、そこの方、どうか驚かないでくださいましね。危害を加えるつもりなどございませんので」
「え!?」
なにこれ、すごく違和感。
目元を包帯でぐるぐると巻いてある異様な姿をしていて、表情が分かりにくいにも関わらず、彼女の口元の笑みはどこか親しみを感じられる。
それにしても何故、包帯で目を隠しているんだろう?
「お前がそう言っても説得力がないぞ。屋敷の中で一番おっかないのはお前だ。先程も気配がなかったぞ。心臓が止まるかと思ったぞ」
そうは見えなかったけど!?
それにしても子狐の名前が判明した。あまつき。天月という名前なのだろう。
「可愛らしいお嬢さん。天月様にお付き合いくださり、ありがとうございました。貴女がこの場所にいらしたおかげで勇気づけられたようでございます」
「おい!僕がまるで怖がっていたかのように言っているが僕は」
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