21人が本棚に入れています
本棚に追加
1章 遭遇
馬鹿らしい。目の前の光景を見て、どうでも良くなってくる。手に取った香水の瓶に視線を落としながら、そっと耳をそば立てた。
ショッピングモールの中の可愛らしいショップと同じくらいの甘ったるい雰囲気。
高校生くらいの可愛らしい女の子があざとい微笑みを浮かべているのは想像しなくても分かる。
男の方が女の子の腰を引き寄せて密着している。
「祐也くん。こんなのお姉ちゃんにバレたら……」
「大丈夫だよ。瑠璃がこんなところに来てる訳がないって」
瑠璃とは私のことだ。いつもよりもものを考えられていない。
寄せられた顔。重なる影。触れ合う唇。
なんておめでたいんだ!偶然により、きみたちのすぐ後ろにいるんですが!?
私の彼氏と私の妹が身を寄せ合い、今にも触れそうな程に近付いているこの光景を見せられている私って何だろう。
あ、彼氏じゃない。元彼氏だ。
ちなみに明後日は付き合ってから一年だった。信じられん。しかも妹である。
確かに、ここ数か月間、二人が仲良さそうにしている光景は目にして来たし、彼氏の祐也は妹の友香に優しかった。
というより、私に見せる顔とまた違った砂でも吐きそうな程の甘い顔だったかもしれない。
確かに、友香は華やかな美少女で、地味目な私と違って、とてもモテた。性格も明るく人懐っこくてクラスで目立つタイプだった。
私の父も表立って態度に示す訳ではないけれど、友香の方を贔屓しているのは明らかだった。
そんな可愛らしい美少女に甘えられて落ちない男はあまりいないだろうと私も思ってはいたが、まさか人の彼氏に手を出す程、節操のない妹だとは思わなかった。
そして、人の妹に手を出すロクデナシ野郎だと思わなかった。
先程の距離感。パーソナルスペースは人によって違うけれど、彼らの距離感には違和感があった。甘えるように掴む友香の細い指、祐也の距離の詰め方、それらが一線を越えた恋人たちのそれと酷似していたのだ。
密着することが当たり前になっているような、自然に詰められた距離感を見て、女は察するのだ。
あ、これはヤってるって。
最初のコメントを投稿しよう!