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新しい服や、綺麗な水がもっと要る。そう思い共同体の家へと戻った。私は必要なものを探していたが、なかなか見つけることが出来なかった。
私のいない間に置き場所が変わったのだろうか。この建物内で一番広い部屋を覗くと、全員がそこに集まっていた。ちょうど食事の時間らしい。
今までは仕事をしながら各自で済ませることが多かった。それだけ生活が整ったと言うことだろう。私は必要なものがどこにあるのか、尋ねようとした。するとその時、誰かが言ったのだ。
「みんなのために」
そして他の人間も繰り返した。
「「みんなのために」」
彼らは食事をする前にみんなのために今日した仕事を報告し合っているようだった。そしてまた言う。
「みんなのために」
「「みんなのために」」
私はその光景に違和感を抱きながらも、一人の肩を掴んで尋ねた。
「怪我をした男を見つけた。ここから徒歩半日分だ。その男に服や水を与えたい」
すると率先して「みんなのために」と言っていた者が立ち上がり近付いてきて、私に尋ねた。
「あなたは、何をしましたか?」
「だから怪我した男を」
「それはみんなのためになりますか?」
こいつは誰なんだ。私の知っていた彼女とは違う。私のいないこの何日かで教祖様にでもなったというのか。
「男を見殺しにするのがみんなのためだっていうのか」
「いいえ、男を見殺しにするのもしないのも、みんなのためにはなりません」
狂っている。履き違えているのだこいつは。確かに今までの努力はみんなのためでもあった。でもみんなのためにという大義名分のためだけに、この共同体を今のような住み良い環境にしたのではなかったはずだ。
「お前ら、どうしたんだよ」
私の話は誰も聞いていない。私の話を聞くこともまたみんなのためにはならないのだろう。
「みんなのために」
「「みんなにために」」
だから一体何なんだこれは。私はついに耐えかねて、言葉を選ぶことも忘れてしまった。
「それ!お前ら!気持ち悪いんだよ!」
誰もに聞こえるような大声で言った。すると数人こちらを向いた。これだけの声を張って数人しか私を見ないのか。
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