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「花桃弓梨さん。あなた、夏休み特別学習対象者に、決定しました。……おわかりですね。選ばれた理由が」
「はあ。まあ、なんとなく」
わたしは口をもぞもぞさせる。
担任に呼ばれた時点で、覚悟していた。
高校一年生になってから六月末までの定期試験、中小テスト。ことごとく討ち死にしていた。
ひょっとしたら最下位?
温情あふれる女性教師は、はっきりと口に出さなかったが、目元に憐憫の情を漂わせていた。
さすが全国に名だたる名門校。
落ちこぼれを、なんとかすくい上げようとしている。夏休み中に追いつかせようとしている。
だが。
わたしは高校からの外部進学者。
中学校から上がってきた者と同じ土俵に立たせて、戦わせないで欲しい。
内部進学者百名と、高校受験をして入ってきたばかりのわたしたち十七名と。
一緒にしないで!
わたし、一年A組、花桃弓梨の。
心からの叫び! でした。
「モーモちゃん。どうしたの?」
「うひゃっ」
いきなり後ろからバグされた。
誰がわたしを襲ってきたのか。
そんなの、声でわかる。
激蒼色の顔色であろう、わたし。
職員室から外れた廊下の片隅で、ぼう然と立ちすくんでいた。無防備だった。
そこを不意打ちされた。
この、生徒会長に。
ちなみに我が校は女子校。
ゆえに襲ってきたこの人も、わたし同様、女の子だ。わたしよりも遙かに美人さんで、たぶん、学年で一番賢い。
さらさらの黒髪を、惜しげもなくショートカットにしている長身痩躯の彼女。
深みのある漆黒の瞳も麗しく。鼻梁はすっと通り、くちびるはリップクリームを塗っていないのになお紅い。
彼女の名前。
樹幾、という。
わたしは生徒会長の名前を読めなかった。
いつき、いく。
そう読むのだと、本人から教えてもらった。
後ろからのハグとともに。
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