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「何で嘘って決めつけてんのさ」怒った顔の杏。
「だって嘘でしょう?」
寒さのせいか少しこわばった顔を出来るだけ動かし、にっこりと微笑んだ貴子に杏が少したじろいだようだった。
「嘘じゃないから。もう、来ないでくれない?」貴子の横を通り過ぎて歩いてゆく杏の背中に、貴子は声をかけた。
「嘘だって認めてくれるまで、私ずっと待ってますから」
「ちょっと、冗談やめてよ」振り返る杏。
「冗談じゃないですよ。本気ですから」
何か言おうと口を開きかけた杏は、鼻水をかもうとする貴子を一瞥したものの向きを変えて歩いてどこかへ行ってしまった。
バッグからティッシュを出して、鼻をかんだ貴子は白い息を空中へ躍らせた。
―――なんにしても彼女は、嘘を言ってる。何としてでも嘘だったって言わせないと。白井部長はクビになっちゃう。そんなのって無い! ありえない。あれだけ頑張ってHOKUBUを盛りたててきた人にあまりにひどい仕打ちだ。
貴子は、決めていた。
―――彼女に真実を話して貰う。それしか無い。それしか……。白井部長の潔白を証明したい。そのためなら、私はどうなってもいい。そのためなら……
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