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「あれって……」
安藤も白井も同時に気がついていた。
あれが彼女だって事に。
しまったままの扉に寄りかかり、放心したように空を見上げる貴子。
―――ったく、やっぱり、ここにいたか。恥ずかしい台詞をかなり大きな声で連呼しちゃって。
貴子を心配した白井がアパートの階段へ近づこうとすると、安藤が白井の腕を掴んだ。
安藤は、白井の腕を引っ張り
「部長、ほら、ドアが開きました」と言った。
見るとドアが開いて、中へ貴子が入っていくのが見えた。
「ここは少し、任せてみませんか? 藤谷さんに」
安藤の言葉を聞いても白井は迷っていた。
―――あんなひどい嘘をつく女だぞ? 彼女一人に任せて、あの女に何かひどいことでもされたら? 俺はどうすればいい? やっぱり、無理だ。
彼女一人に俺なんかの事で危険な目には合わせられない。
販売員の家に向かい始める白井の腕をなおも安藤が掴んできた。
「信じてみましょうよ。好きな人の事を……って、その……藤谷さんも言ってた事ですし」
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