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「うわっ! 何? この手、殴るつもり?」
頭を低くして出てきたのは、部屋の主の杏だった。
「藤谷さんは、どうしたっ!!
ここへ入ったのはわかってるんだ! 藤谷さん!」
血相変えて玄関から部屋を覗く白井と安藤。
部屋の真ん中のコタツの天板に頭をつけて動かなくなっている貴子らしき後ろ姿が見えた。
「ふ、藤谷さん!」
顔面から血の気を無くしていく白井は、杏を手で押しのけて部屋に靴のままズカズカと上がり込んで行く。
―――なんて馬鹿だったんだ。彼女ひとり危ない目に合わせて……。俺は好きな女を守れないほどに情けない男だ。さっさと飛び込んでいれば!
白井は、唇を噛み締めながらコタツに突っ伏している貴子の肩に手をかけようとしたところで、ふいに貴子がむくっと頭を上げた。
「あれ? もう、買って来たの? ……?
あれ? おかしいなぁ。まぼろしが見えるんだけど……」
トロンと座った目をしている貴子。テーブルの上に転がる日本酒の紙パックが数個、柿の種が散乱している。
「空きっ腹に日本酒はー効くねー、こりゃあさー、いつもはさーあ、こんなにベロベロにならないのよ。なのにさーあ、こんな幻まで見えるんだからぁ、相当重症だって」
ペチペチとご機嫌で白井の頬を掌で叩く貴子。
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