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叩きながら、貴子の笑顔が消え眉間に皺が寄っていく。ペチペチ叩いていた手が白井の頬に止まった。
「可笑しいなあ……なんだか本物っぽい」
貴子は、焦点の定まらない目をなんとかしようと目を細めた。
―――なんだ。無事だったのか。ただの酔っ払いか。
「ちょっと、ちょっと! 白井部長! いくらボロ屋でも靴くらい脱いで上がってよ」玄関にいた杏が、部屋に戻ってきた。
「それより! 彼女がこんなになるまで、たかだか5分でベロベロじゃないか! いったい何飲ませたんだっ」
白井は、靴を脱ぎながら憤慨していた。
「何って。日本酒よ。朝から何も食べてないところに急に飲んだからきいちゃったみたいね」
―――何も食べずにこんな時間まで俺の為に……
「……その人に全部話したけど、白井部長に襲われたって……嘘ついたこと」
安藤が玄関先に立ったまま、
「なんでそんな嘘を!」と怒って聞いた。
「なんでって、好きだからよ! 好きな人に頼まれたら、あんた断れんの?」
「断れるね! 好きな人だからって人を陥れる手助けは出来ない」
正統な意見を述べる安藤に杏は、感心したように頷いた。
「偉いね、あんた。私は、断れなかった。私が白井部長に振られて落ち込んでる時に声かけて元気づけてくれた唯一の人だったから」
杏は、まっすぐに白井を見つめた。
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