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―――そうだ。この販売員には見覚えがあった。告白されたが、キッパリ断わっていた。
「そんな好きな人だったのに、あっちは私と別れたかったみたいなんだよね。ある男が教えてくれたんだぁ。もう、用済みだから別れさせる手伝いをしてくれって頼まれたんだってさ。笑っちゃうよ」
言葉では、そう言っても杏は泣きそうな顔をしていた。
「それでも……好きだったんだよねぇ。隆弘の為になるならって思って黙ってるつもりだったんだぁ私。でも、その人にさ」
杏は、顎でコタツに突っ伏してる貴子を指し示した。
「隆弘の役に立ちたいって無条件に力になる事が……嘘をついてまで言いなりになる事が……本当に隆弘の為になるのかって言われて……少し考えてみたんだよね」
杏は、泣きそうになり唇を噛んだ。
「なるわけない。そんなのいくら私でもわかってた。わかった上で力になりたかったの。けどさー、その人が白井部長の事を好きで、助けたいってのを聞いて思ったの。あぁ、おんなじなんだあって。その人も私と同じように好きな人の力になりたいだけなんだなぁって」
杏の言葉に白井は、テーブルに突っ伏している貴子の顔にかかった髪を指でそっと整えながら撫でた。
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