第五十九段階 澤口の恋愛オプション

3/5
前へ
/39ページ
次へ
「……なるべく穏便に訴えたりしないように白井部長に頼むつもりだ。それが……親馬鹿の私が単細胞な息子のために出来る最後の事だ。わかったら……出て行ってくれ」 背中を向けたまま窓から外を眺めている澤口部長。 ―――そんな……。 うなだれている澤口は、拳を握り締めた。 ―――どいつもこいつも、ここにきてどうして掌を返すように俺に刃向かってくるんだ! 俺がいったい何をしたんだ。哲司に亜矢に杏。どいつもこいつも許せない。 怒りに震えながらHOKUBUデパートを出た澤口の前にひょっこり現れた人物がいた。 杏だった。 「お前! なんで裏切った!」 杏の両肩を掴んで、ぶんぶんと前後にゆする澤口。 「いたい! いたいよ! 隆弘」 痛がる杏から澤口は乱暴に手を離した。 「何しに来た。これ以上、俺に何の用があんだよ!」 「会いに来たの」 「なにを言ってるんだよ。お前。俺を裏切ったくせに!」吐き捨てるようにいう澤口。 「裏切ってないよ。今でも隆弘が好きだもん。だから、こうやって待ってたの」 杏を不思議な生き物でも見るように眺める澤口。 「好きだって? なら、なんで俺を苦しめる」 「ごめん。隆弘。でも、こうするしかなかったの。私、隆弘が好きだから、愛してるから……隆弘はまともに頑張ってやってける人だって思ってる。応援するから!」     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加