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「まともだの、応援だのって何だよ。お前……俺がお前みたいな若いだけの女を相手にするとでも?」
「それもわかってる。別れたがってたのも哲司って人から聞いたんだから」
―――哲司に聞いた? なるほど、こいつにも哲司は最後に吹き込んでから消えたって訳か。
澤口は苦笑いして杏を見た。―――哲司から聞いたのに、まだ俺を引きずってんのか。馬鹿な女。
「馬鹿な女だって思ってもいい。私もそう思うもん。本当は冷たいし遊び人だし、嘘つきだし」
杏に言われて澤口は、口の端を上げて笑った。
「思ったほど馬鹿じゃないな。お前。ちゃんとわかってるみたいだな。……じゃあ、わかるよな。この後、俺がどう言うか」
澤口の瞳が冷たく光った。
「わかるよ。二度と俺の前に現れるな、か、それに似たような言葉を言うんでしょ?」
大きな杏の瞳が揺れていた。
―――わかってるなら、わざわざ言わせるな。面倒くさい。
「それでも、好き。隆弘が好き」
―――こんなに好きだと言われたことは、記憶する限り無かった気がした。ここ一年、遊んだ女はきれいさっぱり哲司になびいていった。過去の自分は、いつも仮面を被っていた。女にもてる為にたくさん嘘をついて、たくさんいい人ぶっていた。裏の顔を知って、なおも杏は俺を好きだと言う。
澤口は、小さな杏を見つめた。
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