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1匹居ると他にも居るものだ。丸山は帰るのも忘れてまた潜って探し始めた。
「やった! 大漁だ」
岩の彼方此方にアワビやトコブシが引っ付いていた。
夢中になって捕っている丸山の足に何かが触れた。
「海藻か? 」
振り向いて足を見た丸山が口から泡を吹き出した。
「フギュッ! グポポッ……ガハッ! 」
細い手が左足を掴んでいた。
「ガッ、グガッ! 」
左足を掴む手を外そうともがいていると今度は右の二の腕を掴まれた。
「クハッ…… 」
驚きながら辺りを見回すと顔があった。
先程の砂場に顔が浮んでいた。恨めしげな男の顔に見える。
1つだけではなかった。岩と岩の間の砂だけでなく彼方此方の岩にも顔があった。男、女、小さいのは子供だろう、無数の顔が岩からぬっと突き出して恨めしそうに丸山を見つめている。その顔の付いた岩や砂から細長い腕が伸びていた。
無数の腕が丸山の体に巻き付いてくる。
「ガッ、ガガッ…… 」
肺の中の空気を全部出しながら丸山は必死にもがいた。
絡み付く手に岩に引っ付いた貝を剥がすヘラを突き立てる。手元が狂って自分の手足に刺して血が流れるが構っていられる状況ではない。
「クハッ、たっ、助けて……助けてくれ」
絡み付く手を振り払って海面に出ると息を吸い込んだ。
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