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「・・・なに。そんなに長谷川と入ったのが悔しかったのか」
「はい。そうです」
即答に、少し面はゆくなる。
「だってホントあいつの洗い方、めちゃくちゃ雑で、息子以下だったぞ。文句言ったら、『田植え期の田畑にはまった犬を洗うに同じ』って抜かしやがったし」
「それでも、池山さんに触ったのは、凄く嫌なんです」
「触るも何もさあ・・・」
昔は口に出すには憚られるくらい濃密なセックスを繰り広げていたとは、さすがに目の前の男に言えない。
しかし、その胸中を敏感にかぎ取ったらしい江口がめずらしく唇をむっと真一文字にひき結んだ。
「本当なら、長谷川さんと利用したホテルを全てしらみつぶしに泊まりたいくらいです」
「は?お前、あいつと付き合ったのは更にもっと前だぞ?」
当時、二人とも学生だったから、それこそ十年近く前になる。
「だって、池山さん、忘れてないでしょう」
「・・・」
それは否定しない。
以前、本間に昔付き合った女のフルネームが言えるかと座興で問われた時に、まず最初に思い浮かんだのが長谷川生。
そして、彼女以外はおぼろげだった。
別れた後に何人もの女性と付き合って、江口耕に辿り着いたのに、記憶に刻まれたのは一人。
共有した時間は長くない。
しかし、彼女のセックスは他の女性達のように甘く可愛らしいものではなかった。
例えて言うならば、真夏の昼の光。
強すぎる快楽は、まるで命のやりとりをしているかのように感じさせた。
それはひとえに彼女の背負った過去のせいだと知ったのは、全てが終わってからだったけれど。
おそらく、彼女と関わった男なら誰でもあっさりと忘れることはないだろう。
一度もそれを語ったことはないのに、なぜか勘付いていたようだ。
「友人として長谷川さんのことは好きです。尊敬もしています。でも、時々、どうしようもなく妬けてくるんです」
どこか切なさを含んだ声に、池山は見上げた。
「耕」
シャワーブースの中は湯気が籠もって、霧状になっている。
むっとした熱気に、心が乱れる。
「・・・あいつは、本当に強烈だったから・・・。確かに、思い出すこともあるさ。でもな」
両手で江口の顔を包み込み、伸び上がって厚い唇に自らのを寄せる。
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