記憶の、上書き。

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「ん、ああっ」  ぐっと亀頭が蕾を開いた。  入ってくる。  誰よりも、自分の奧へ。 「コウ・・・」  肩に爪を立て、貪欲に求めた。 「で、そもそもどうしてこの部屋とれたんだよ」  念願の風呂に浸かりながら、池山は尋ねた。  シャワーブースで二回貫かれ、湯あたりしたのをそのままベッドに放り込まれ、更に際限なく挑まれた。  自分が誘ったのだから自業自得だが、疲労困憊である。  結局、湯船に浸かれたのは、夜が明けてからだった。  じわじわと、ガラス窓の向こうが白んでいく。  朝日が浴室を照らすのも、もうすぐだろう。  背中からしっかりと抱きしめられたまま、指先で浮かんでいる泡をはじく。  ジャグジーで入浴剤が泡立てられ、水面をもくもくと覆っていた。  さすがにこういうことは自宅ですることはないから、楽しい。  子供のように夢中になって泡で遊んでいると、時々、江口が後ろから身体に悪戯をして邪魔をする。  しばらく声を上げて笑いながらじゃれ合っているうちに、ふと、疑問が浮かんだ。  江口は裕福な家の出だが、働くまではスポーツ一本槍でこういうことに疎い。  寮生活が長かったせいか、毎日の暮らしも質素で、堅実だ。  とうてい、イブの夜にリザーブするような洒落た真似は出来ない。 「ええと・・・」  両腕を胸元に回してぎゅっと池山を抱きしめて顎を肩に乗せ、しばらく逡巡した。 「おい」  肩を軽く上げて催促すると、ぽつりと答えた。 「・・・すみません、本間さんを売りました」 「は?」 「その前に、もっとすみません。勝手に携帯電話の中を見ました」 「・・・別に良いけどさ、いつ見たんだよ」  隠し事は一切無いつもりだっただけに、江口の行動は意外だった。 「・・・こっちに戻ってきてからです」  江口の任務が解かれたのは、今期に入ってからだ。 「・・・九月くらい?」 「はい、そうです」 「ぜんぜん気が付かなかったな」  自分に隠し事をしていたなんて。 「本当にごめんなさい。見るつもりはなかったんです。でも、たまたま池山さんが眠っている時に電話がかかってきて、とったら篠原さんで・・・」  そういえば、そんなこともあったかもしれない。 「ちょっと受け答えをした後、着信履歴を見たら、メールとかも、『秘書さん』って名前が結構多くて・・・」
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