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「それは・・・また・・・」
篠原が、本間と過ごしたくて予約していた部屋。
「ちょっと、気の毒な・・・」
「ええ・・・。でも、誘惑に勝てませんでした」
うろうろと、大きな手が背中をさまよっている。
「・・・あきれました?」
眉を下げられて、笑いがこみ上げてくる。
「ばあか」
しおれきった江口の両頬をつねって伸ばした。
「んなわけないだろ。もしも俺が秘書さんに打診されたら、同じようにありがたく使わせてもらったさ」
篠原と本間には悪いが、こんな機会、なかなかないのだから。
ふいに、池山の中でスイッチが入った。
目の前の男を、もっと感じたい。
足を広げて、江口の腰に絡める。
彼の瞳も同じように雄の色が広がり、ゆっくりと突き上げてきた。
同時に二人で息をつく。
「なあ・・・。チェックアウト、何時だっけ」
唇を耳に寄せてことさら甘い声で尋ねると、江口は膝を撫でた。
「・・・明日の、正午です」
「・・・は?明日?」
思わず、素に戻った。
「はい明日」
確かに、今日はまだ土曜日。
連泊するのも可能だ。
しかし、クリスマスイブのセミスイートは、景気が低迷している今でも争奪戦だろう。リザーブするなら半年以上前、もしくは特権を振りかざしてねじ込むかだ。何にしろ、本間を追いかけ始めて割とすぐに部屋を押さえたのは、半分願掛けでもあったのではないか。
「・・・まったく、意外と乙女なんだよな、秘書さんって・・・」
そんな彼の可愛らしいところが本間の琴線に響くといいなと、少し思った。
今日はクリスマス。
キリスト教徒ではないけれど、特別な日。
愛しい人との時間を存分に味わいたい。
「コウ・・・」
唇を合わせながら願った。
すべての人に、幸福を。
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