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薄気味悪く思った浅井は帰る事にした。今回は日帰りでは無いのだ。明日も来てゆっくりと浸かればいいと考えた。
『もっとゆっくりしていけ』
先程まで碌に返事もしなかった爺さんが振り向いた。
『お前さん、町から来たんか? 山登るの大変じゃったろう』
にこやかに話し掛ける爺さんを見て立っていた浅井は湯に浸かり直す。
「そうですね……じゃあ、もう少しだけ」
気持ち良さげに手足を伸ばして浅井が続ける。
「お爺さんは地元の方ですか? 」
話しの切っ掛けになればと先程訊いた質問を繰り返す。
『ああ、儂は向こうの村じゃ』
爺さんは浅井が登ってきた方角とは反対側を指差した。どうやら山の反対側にある村に住んでいるらしい。
「そうなんですか、それじゃあ、毎日入りに来られますね、羨ましい」
『ああ、若い頃は毎日来とった……懐かしくて来たんじゃが………… 』
爺さんの声が重苦しく感じた。その時、頭がくらっとした。
「なんだ…… 」
湯中りでもしたのかと浅井が湯船から出ようとする。
「のぼせたみたいです」
断って出ようとした浅井の腕を爺さんが掴んだ。
『もっとゆっくりしていけ』
「うわっ! 」
思わず声が出た。湯の中だというのに爺さんの手は氷のように冷たかった。
「ちょっ、離してください」
『もっとゆっくりしていけ』
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