第三話 山奥の湯

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 爺さんの無表情な顔を見て浅井はまた湯に浸かった。 「じゃっ、じゃあ、もう少しだけ」  気味の悪い爺さんだと思った浅井は隙を見つけて逃げようと思ったのだ。 『寒い……冷たい…… 』  浅井の腕を掴んでいた手を離すと爺さんは湯を薄めるのに使う湧き水の出るホースを湯船から外した。  5分もすると温度が上がって熱くなる。 「熱い、熱すぎませんか? 」 『寒い、寒い……ここは冷たい』  浅井が真っ赤になって熱いと言うが爺さんは寒いと真っ青になっている。 「もう限界だ! 」  飛び出すように湯を出ようとした浅井の足を爺さんが掴んだ。 『もっとゆっくりしていけ、寒い寒い……ここは冷たい………… 』 「離してくれ! 」  のぼせて頭がフラついていた事もあって正常な判断が出来ずに足を掴む爺さんの手を反対側の足で蹴るようにして外すと浅井は湯から出た。 『あぁぁ……うぅぅ………… 』  爺さんの低い呻きが聞こえた。やり過ぎたと思った浅井が振り返る。 「すみません……あっ! 」  浅井は息を呑んだ。  湯に浸かっている爺さんの顔がドロドロに溶けていく、 『寒い、寒い……ここは冷たい』  肉が溶けて骸骨のようになった爺さんを見て浅井は悲鳴を上げて逃げ出した。 「わあぁぁ~~、あぁ…… 」     
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