バーグの街から現在まで

100/102
前へ
/169ページ
次へ
 カイはあたしを、あたしの部屋に連れ込み、後ろ手で障子を激しく音をたてて、閉めた。  初めて目にするカイの乱暴な所作。でもあたしは、動じなかった。 「カイらしくないね。最後まで笑顔で見送ってよ」 「君にとって僕は何なんだ? いてもいなくても、変わらないのかい」 「そんなわけじゃないけど。いっぱい素敵な思い出くれたから、あたしは一人でも平気」 「僕は……僕は平気になんかなれないよ」  哀しい思い出になんて、させない。 「なってよ。なれるよ。だって、カイだもん。あたしが好きになった人だもの」  カイはあたしを抱きしめた。力一杯。聞かなくてもわかる。離すものか、と。 「僕も出て行く」 「やめてよ。あたしは一緒になんか行かないからね」 「どうして」 「自分で言ったでしょ? あんたはいずれここを統べる人。もっとたくさんの人の心を救う人。一時の感情で離れたりしたら、だめ」  カイの腕に力がこもった。聞こえた。僕は君がいれば、何も要らない、と。  そんなことは、言わせない。あたしはカイをそっと抱き返した。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加