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カイはあたしを、あたしの部屋に連れ込み、後ろ手で障子を激しく音をたてて、閉めた。
初めて目にするカイの乱暴な所作。でもあたしは、動じなかった。
「カイらしくないね。最後まで笑顔で見送ってよ」
「君にとって僕は何なんだ? いてもいなくても、変わらないのかい」
「そんなわけじゃないけど。いっぱい素敵な思い出くれたから、あたしは一人でも平気」
「僕は……僕は平気になんかなれないよ」
哀しい思い出になんて、させない。
「なってよ。なれるよ。だって、カイだもん。あたしが好きになった人だもの」
カイはあたしを抱きしめた。力一杯。聞かなくてもわかる。離すものか、と。
「僕も出て行く」
「やめてよ。あたしは一緒になんか行かないからね」
「どうして」
「自分で言ったでしょ? あんたはいずれここを統べる人。もっとたくさんの人の心を救う人。一時の感情で離れたりしたら、だめ」
カイの腕に力がこもった。聞こえた。僕は君がいれば、何も要らない、と。
そんなことは、言わせない。あたしはカイをそっと抱き返した。
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