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「思い出せるでしょ? 少しずつ惹かれていったこと、初めて抱きしめてくれたこと、
口付けてくれたこと、マナトに見られちゃって気まずかったこと、
何度も体を重ねたこと。
言葉、表情、態度、体の重み、体温。
離れてもあたしの中にはカイがずっといるもの。
カイの中にも、あたしを生きながらえ続けさせて?
最期に目を瞑るときに、思い出して?
それであたしは、この上もなく、幸せ」
カイの腕が、緩んだ。泣いているのかもしれない。
あたしも泣きそう。でも、泣くもんか。
カイは腕を離した。あたしも離した。
あたしたちは見つめあった。伝わるかな、言いたいこと。
一番辛いのは、忘れられること。二番目に辛いのは、哀しみを引きずられること。
だからあたしは。自然に笑みが湧いた。だって、嬉しいから。
「そして、また好きな人を見つけて。その人をあたしよりもっと愛して、もっともっと愛されて、幸せになって。
あたし、あんたがそうなることをずっと想像してくから。期待を裏切らないでよね」
やっぱり涙は、落ちた。
困ったな、とまらない。哀しくなんかないのに。
カイも泣いていた。やっぱり、とまらないみたいだ。
でもカイは、笑った。聞こえた。
僕も君とのことを、哀しい思い出になど、しない、と。
カイは、もう一度あたしを抱きしめた。今度はそっと、包み込むように、大事にあたしを抱いてくれた。あたしもそうした。
こんな風に言ってくれた。君は最後まで僕の心を救ってくれた。
「君に会えてよかった。生きてきてよかった」
頬にかかるカイの涙を受け止めながら、二人の涙が交じり合う様を感じていた。
ありがとう、カイ。笑顔で応えてくれて。
これで今まであたしが培ってきたものすべてを、愛することが出来る。
あなたに愛されてよかった。あなたを愛してよかった。
こんなに素敵な思い出を抱いて生きていけるあたしは、幸せ。
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