1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
定時は22時、という名言を残す佐野さんにとって休日出勤など何でもないのであろう。
「ああ、その仕事は土曜日に終わらせるんで」
とか平気な顔で言われて耳を疑ったものだ。
念のため言っておくと、うちの会社は10時~19時、土日祝日は休みである。ちなみにベンチャーなIT企業というやつで、スマフォアプリを作ったりしている。私は企画担当で、佐野さんはプログラマーさんである。
先日、溜まりすぎた振り替え休日をどうにかしてとれ! と上司に怒られているのを見た。有休の残りが心もとない私には、うらやましい話である。
早い話が、佐野さんは社畜なのだ。
「そんなに休日出勤ばっかりしてて、大丈夫ですか?」
「休みの日にすることが何もないからさ、退屈なんだよね」
へらへらっと笑う。質問の答えになっていない。
独身なのは知っているが、カノジョもいないのだろうなと思った。毎週のように会社に行っているカレシなんて嫌だ。
私は週休五日でも足りないぐらいやりたいことがたくさんあるのに。多分、佐野さんは無趣味なのだろう。
佐野さんの名誉のために付け加えておくと、佐野さんは決して仕事が出来ないわけでも、遅いわけでもない。むしろ、はやい。そして丁寧だ。
細かいところにもよく気がついてくれて、こちらが思いつかないことを提案してくれる。無茶なお願いにも答えてくれるし、社長の気まぐれで変更になった仕様にすぐに対応してくれる。
そんな風に優秀だから、逆に次から次へと新しい仕事を振られてしまうのだ。
「佐野さん、今いくつ案件抱えてるんですか?」
「んー?」
可愛く小首を傾げられた。小さいおっさんなのに。さては本人も把握してないな。
最初のコメントを投稿しよう!