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悠李がアパートに帰り一息ついていると、大家が訪ねてきた。
悠李はこの年嵩の女性が得意ではなかった。何かにつけてチェックし、「そういう決まりなので」と口煩く言いに来るからだ。
今回も突然の解約に文句を言いに来たのだろうと、内心うんざりしながらドアを開けた。
だが予想に反して大家は笑みを浮かべている。
「河野さん、良かったわねぇ。新しい働き口が見付かったんですって?」
「ええ、まあ」
「雇い主の方、とてもいい方ね。
電話での感じも良かったし、突然の解約で申し訳ないからって、もう一月分の家賃を出すって言うのよ」
「ええっ!?」
「やだっ、もちろん私はお断りしたわよ? でも先方がどうしてもって言うから。
あまりお断りするのも、ね?」
「はあ……」
「細かいゴミとか捨てるものがあったら、こちらで捨てておくから玄関に置いといてちょうだい。
他にも困ったことがあったら声をかけてね」
「ありがとうございます」
「いいのいいの。こんな時はお互い様よ」
悠李はこんな風にご機嫌な大家を初めて見た気がした。
お金に物を言わせたのか?と不愉快な気持ちに覆われていく。
だがそれは、この大家だけではなかったとすぐに知ることとなった。
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