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悠李の胸がジンワリと温かくなる。
長谷川からそう言われたことが素直に嬉しかったのだ。
「あの、俺、もう少しここで頑張ってもいい?
長谷川さんが嫌じゃなければだけど…」
おずおずと口にする悠李に、長谷川はゆっくりと頷いてみせる。
「お前がいなきゃ困ることも多いんだ。
もう一度頑張ると決めたからには、途中で投げるなよ?」
「はいっ!」
笑顔で返事をした悠李に、長谷川は一瞬何とも言えない顔をした。
だがそれも、すぐにいつもの能面のような顔へと変わってしまう。
「じゃあ、それ洗っておけ。
それと明日は遅くなるから夕飯はいらない」
「分かった」
その晩、悠李は『いなきゃ困る』と言われたことを単純に喜び、温かい気持ちのままベッドに横になった。
日々上手くいかない中でも、自分を必要としてくれる人がいる。そう思うだけで、明日からもっと頑張れる気がした。
更にこの数日は、口煩い薄情な雇い主だと思っていた長谷川に、久しぶりに優しい一面を見せられて、正直胸が熱く鼓動を打ち鳴らしていた。
─もっとあの人に喜んでもらいたい。
就活も家政夫も、今まで以上に頑張ろうと自分に誓うと、悠李は静かに眠りに就いたのだった。
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