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「長谷川さん、トースト出来たよー」
悠李の声に長谷川は、素早く身なりを整えリビングの扉を開けた。
コーヒーの芳ばしい香りが鼻孔をくすぐり、テーブルの上にはトーストと共に、ミニトマトを添えたスクランブルエッグの皿が置かれている。
手早くなったものだ、と長谷川は感心する。
以前の悠李は手際が悪く、同時に物事を進めないから、パンを焼いてる間はパンだけ、コーヒーを用意してる間はコーヒーだけと、恐ろしく時間がかかっていた。
見るに見かねて長谷川が助言すると、それを素直に聞き入れ、パンを焼いてる間にお湯を沸かし、更にスクランブルエッグも作れるようになっていた。
「人間、やれば出来るようになるもんだな」
「だろ? 俺もここまで出来るようになるとは思わなかった」
コーヒーを長谷川の席に運びながら、悠李も自慢気に同意する。
だがそんな彼を見て、長谷川は露骨に顔をしかめている。
「お前、まだ髪切らないのか?」
元々ミディアムヘアだった悠李の髪は、この数ヵ月で随分と伸びて、見る側としては鬱陶しいこと、この上ない。
「切らないよ。願掛けしてるってこの前も言ったじゃん」
悠李は少しムスッとした顔を長谷川に返した。
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