第1章

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俺はその夜、中学の頃を思い出していた。 華やかな青春時代を過ごして来た俺だが、2つ苦い思い出があった。 いわば初恋というやつだ。 顔も名前も覚えている。 村上裕子。 バスケ部のキャプテンで太陽のような女子だった。 髪はツヤツヤのロングで、いつもポニーテールにしていた。 整った顔立ちにすらっと伸びた足。 ユニフォームの上からでも分かる胸の膨らみ。 自分で言うのもなんだが、男子はサッカーの杉原、女子はバスケの村上という感じだった。 影ではお似合いのカップルとか言われていたのも知っていた。 俺は中学の卒業式で村上に告白した。 かなり自信があった。 まさか振られるなどと思ってもみなかった俺は、堂々とみんなの前で告白した。 村上の『部活と勉強に専念したいから今は彼氏とかはごめんなさい』という優しいフォローでなんとかプライドは守られた。 現に村上は進学校に進み、バスケでも県選抜に選ばれていた。 みんなも村上の言葉を信じていた。 しかし数年後、俺は衝撃の真実を知った。 坂下めぐみ。 のちの婚約者だ。 中学の頃、一番の問題児と言われた坂下めぐみ。 髪は金髪に染め、スカートはひこずるほど長かった。 いつも顔にはマスクをつけてバチバチに厚化粧。 まるで昭和のスケバン刑事だった。 その坂下めぐみが俺の事を好きだったようだ。 数年後、友達から聞いた情報によると、村上裕子は坂下めぐみから『付き合ったら許さん』と言われていたらしい。 『本当は好きだった』と村上は言っていたらしい。 全て『らしい』の話だから真実は分からないが、今回の同窓会で村上が来る事を期待していたのは事実だ。 そして同窓会当日。 俺は会場の居酒屋に到着した。
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