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村上は思いのほか強い力で僕を押しのけた。
思ってたリアクションと違う事に僕は動揺した。
『ごめん。私、、、』
村上は申し訳なさそうに口を抑える。
『僕の方こそゴメン。実は僕、村上さんの事、、、今でも、、、』
『好きだ』と言いかけた俺の言葉を村上は遮った。
『違うの。私、学と付き合ってるから。』
『、、、学?』
俺は理解に苦しんだ。
酔っ払った脳が思うように言うことを聞かない。
彼氏がいることをカミングアウトされた事は理解できた。
ただ、名前を言われる意味が分からなかった。
『えっと、学って言われても、僕が知ってる人かな、、、?』
『え?学だよ。堀家くん。』
『え?』
絶対に結びつかない点と点が繋がってしまった。
俺は数秒固まった後、かろうじて言葉を振り絞った。
『ホ、、ケ、、?』
『うん。』
村上の表情が女になった。
赤く染めた頬が妙に色っぽかった。
『そうなんだ。へー。あのー、わかってたよ。わかってたって言うか、そんな気がしてたし。その確認がしたくて呼んだって言うか、そんな感じ。うん。そう。そんな感じ。』
『そうだったんだ。良かった。みんなに気を使わせたくなかったから黙っていようって学が言うから。』
俺は腰から砕け落ちそうだった。
パシリ同様だったホケが、自分の初恋の相手と付き合っている。
俺はフラフラと千鳥足で部屋に戻った。
『遅かったねー。』
坂下がアイドルグループの歌を熱唱しながらマイク越しに言った。
その横で、堀家はニコニコと手拍子をしていた。
今にして思えば、居酒屋であのタイミングで現れ、スッと村上の隣に座った時に気付くべきだった。
ホケは村上と店まで来たのだ。
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